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2024年05月05日
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チョコとチョコ10

2012年03月03日
3月の本、原稿終わりましたー。
あとはファイルの書き出しと実際の入稿だけです。
テストプリントは明日やってみます。すごい間違いがなければいいな…。

マンガはテキストで「続き」にたたんでおりますー。
てゆーか今日終わらなかった。すみません。(笑)

○ポチポチっとありがとうございましたーー!ぺこり。

>さっつさま
おつかれさまです。
響は好きですー。なかなか飲む機会がないですけど。いつか自分にご褒美をやりたいときに、ボトルを買いたいと思います。(笑)
しかもバレンタインネタ、まだ終わらなくてすみません!


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チョコとチョコ10(なぜかテキストにスイッチ)
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店で出していたものとは明らかに違うチョコレートケーキを持ってきた理由を知りたかったのだが。
「総士は遠見の言うことなら素直にきくから」
そんなふうに言われて、一瞬思考に空白が生じた。

それはつまり、自分に都合よく解釈すればこういうことだろうか。
『遠見に言われたからということにしておけば、特別に作った自分のチョコを必ず受け取ってもらえる』と一騎が思い込んでいたのだと。
そして、それを実行するだけの動機が、一騎にはあるのだと。
この解釈は妥当だろうか。それとも単なる希望的観測だろうか。

黙っていたら、一騎が微妙に目をそらしたまま手を伸ばしてきた。
「でもそれは持って帰るから」
僕の両手の中にあるのは、すっかり形が崩れてしまったチョコレートケーキだ。箱の中で無惨に横倒しになっている。
「いい。あとで食べる」
直接床に落ちたわけではない。味は変わらないはずだ。
「でも」
「僕がもらったのだから、これは僕のものだ。お前にはやらない」
「やらないって」
「遠見が言ったんだろう?」
こういうところが良くないのだと自分でも分かっているのだが、一騎に対してはどうしても…その、一騎の言うところの「素直に」はなれない。
一騎がグッと詰まって、ちょっと目を伏せるのを見ると胃の下あたりがむず痒くなる。どこか苛つくのに、その感覚は嫌いではない。
そして同時に自己嫌悪と、一騎に対する憐憫を抱く。
おきまりのループだ。
「じゃあ俺、帰る」
「一騎」
肩を落としたまま背を向けようとするのを反射的に呼び止めた。
このまま帰してはいけない、そう思ってとっさに声をかけたのだが、言葉がみつからない。
「なんだ?」
視線を下げたまま、一騎は僕を見ない。
「これを」
ほとんど勢いで、デスクの一番上の引き出しから薄っぺらくて茶色い紙袋を取り出して一騎の胸元に突きつけた。
そのまま固まったように動かないので、紙袋から手を離したら一騎が慌てたようにキャッチした。
戸惑いだけを浮かべた目で僕を見る。
「西尾さんの店で」
渡してしまってから、何故そんなことをしたのかと後悔が激しくわき上がってきた。
一騎に渡すつもりなどなかったのに。それに、返礼にしては釣り合いが悪すぎる。
どうせ渡すならもっと、意図の通じやすいちゃんとしたものを用意するべきだったのに。
いや、それができなかったからこんな状況に陥っているわけなのだが。
「これ…くれるのか?俺に」
「あ、ああ」
今さら返せとは言えない。
「あ…もしかして俺じゃなくて遠見に?」
「なぜ僕が遠見にそんな駄菓子のチョコレートを渡さなくてはならないんだ!」
「あ、うん…」
「違う、そういう意味ではない一騎。とにかく遠見は関係ない。その…それはただ」
「懐かしいな」
薄っぺらくて茶色い紙袋の中を覗き込む一騎の頬がふわっと緩んだ。
その表情のまま、僕を見た。
「ありがとう」
瞬間的に胃の下あたりが収縮して、急激に体温が上がるのを自覚する。慌てて床に目を落とした。
一騎の笑顔には、僕はとてつもなく弱い。

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